白石大使の活動報告コメント「アルプスに響くカウベル」
令和3年10月25日


10月10日の日曜日、ベルンから片道2時間余りの高地に日帰りハイキングに出かけました。行く先はロートホルン(Rothorn)とシーニゲプラッテ(Schynige Platte)。ちょっと欲張りな行程でした。
「シーニゲプラッテの物見台に、天皇陛下が皇太子殿下時代にスイスを御訪問された際、それを記念してつるされたカウベルがあるので是非見に行きましょう」と、大使館のハイキング仲間から提案されました。
この日は快晴に恵まれ、風もなく穏やかな絶好の秋日和。紅葉狩りと言うには少し早いタイミングでしたが、ところどころ黄色に赤みが加わった葉が常緑の木々に映えて、秋の到来を感じさせてくれました。
早朝、ベルンから列車でインターラーケン・オスト (Interlaken Ost) へ。途中、車窓から見る草原に朝霧が広がり、前夜からの冷え込みのほどがわかります。地表の気温が上がるに伴い朝霧は消え、トゥーン湖の水面が薄緑に輝いています。列車は熟年グループや家族連れ、マウンテン・バイクを積み込むカップルなどでほぼ満席に近い状態でした。
インターラーケン・オストからブリエンツ(Brienz)へ列車を乗換え、ロートホルン(標高2350メートル)に向かいます。ブリエンツからは登山鉄道。時刻表を調べ、ディーゼルカーではなく、小型の蒸気機関車が押す列車を選びました。客車が2両連結のかわいい登山鉄道。ブリエンツの標高は566メートルなので、麓から1700メートルをえっちらおっちら登ります。所要時間はおよそ1時間でした。
急登の間、機関車は水蒸気の煙を上げて走ります。よじ登るという感じでしょうか。線路の間のギアを噛みながら、ゆっくり着実に登っていきます。
この方式の登山鉄道はスイス人のロマン・アプト (Roman Abt) によって発明されたもので、歯形軌条(ラックレール)式、あるいはアプト式と呼ばれているそうです。日本でも信越本線に一時、導入されていました。現在では、大井川鐵道井川線で運行されています。
途中の短いトンネルでは煙が車内に入り込み、独特なにおいが鼻先に届きます。中学生時代、夜行列車で東京に修学旅行に出かけた思い出がよみがえりました。もちろん、もくもく煙を吐く蒸気機関車でした。
トンネルを抜け、雲海の間を走ると青空にロートホルンの頂上付近が見えてきます。少し間を置いて後ろに続く上りの列車、反対側からは下り列車が芋虫の歩みのように見えます。
ロートホルンの終点で降りると、目の前に頂上付近の展望台があります。20分足らず歩けば着くのですが、高地とあって息が切れます。しかし苦労して登った甲斐がありました。アルプスの名峰、アイガー、メンヒ、ユングフラウが眼前にそびえています。そして360度の展望です。これは大感激でした。
雲海の切れ間からはるか下を望むと、青緑色のブリエンツ湖が広がっています。高峰と雲海、そしてパノラマ。三拍子そろった絶景に大満足のひとときでした。
山頂の展望広場から降りて鉄道駅に戻る途中、カメラを山の斜面に向けている人たちがいました。その視線の向こう、100メートルぐらい離れた草むらに、10頭前後の立派な角をはやしたシュタインボックの群れが見えます。
お互いに少しずつ距離を取って座ったままです。のんびりと南面の日差しを楽しんでいたのでしょう。まさに暖秋値千金。シュタインボックたちも同じ思いだったに違いありません。
「シーニゲプラッテの物見台に、天皇陛下が皇太子殿下時代にスイスを御訪問された際、それを記念してつるされたカウベルがあるので是非見に行きましょう」と、大使館のハイキング仲間から提案されました。
この日は快晴に恵まれ、風もなく穏やかな絶好の秋日和。紅葉狩りと言うには少し早いタイミングでしたが、ところどころ黄色に赤みが加わった葉が常緑の木々に映えて、秋の到来を感じさせてくれました。
早朝、ベルンから列車でインターラーケン・オスト (Interlaken Ost) へ。途中、車窓から見る草原に朝霧が広がり、前夜からの冷え込みのほどがわかります。地表の気温が上がるに伴い朝霧は消え、トゥーン湖の水面が薄緑に輝いています。列車は熟年グループや家族連れ、マウンテン・バイクを積み込むカップルなどでほぼ満席に近い状態でした。
インターラーケン・オストからブリエンツ(Brienz)へ列車を乗換え、ロートホルン(標高2350メートル)に向かいます。ブリエンツからは登山鉄道。時刻表を調べ、ディーゼルカーではなく、小型の蒸気機関車が押す列車を選びました。客車が2両連結のかわいい登山鉄道。ブリエンツの標高は566メートルなので、麓から1700メートルをえっちらおっちら登ります。所要時間はおよそ1時間でした。
急登の間、機関車は水蒸気の煙を上げて走ります。よじ登るという感じでしょうか。線路の間のギアを噛みながら、ゆっくり着実に登っていきます。
この方式の登山鉄道はスイス人のロマン・アプト (Roman Abt) によって発明されたもので、歯形軌条(ラックレール)式、あるいはアプト式と呼ばれているそうです。日本でも信越本線に一時、導入されていました。現在では、大井川鐵道井川線で運行されています。
途中の短いトンネルでは煙が車内に入り込み、独特なにおいが鼻先に届きます。中学生時代、夜行列車で東京に修学旅行に出かけた思い出がよみがえりました。もちろん、もくもく煙を吐く蒸気機関車でした。
トンネルを抜け、雲海の間を走ると青空にロートホルンの頂上付近が見えてきます。少し間を置いて後ろに続く上りの列車、反対側からは下り列車が芋虫の歩みのように見えます。
ロートホルンの終点で降りると、目の前に頂上付近の展望台があります。20分足らず歩けば着くのですが、高地とあって息が切れます。しかし苦労して登った甲斐がありました。アルプスの名峰、アイガー、メンヒ、ユングフラウが眼前にそびえています。そして360度の展望です。これは大感激でした。
雲海の切れ間からはるか下を望むと、青緑色のブリエンツ湖が広がっています。高峰と雲海、そしてパノラマ。三拍子そろった絶景に大満足のひとときでした。
山頂の展望広場から降りて鉄道駅に戻る途中、カメラを山の斜面に向けている人たちがいました。その視線の向こう、100メートルぐらい離れた草むらに、10頭前後の立派な角をはやしたシュタインボックの群れが見えます。
お互いに少しずつ距離を取って座ったままです。のんびりと南面の日差しを楽しんでいたのでしょう。まさに暖秋値千金。シュタインボックたちも同じ思いだったに違いありません。


ブリエンツに戻り、再びインターラーケン・オスト駅に。今度は方向を変えて、ラウターブルネン(Lauterbrunnen)行きの列車でビルダースビル(Wilderswil)へ。そこから登山鉄道でシーニゲプラッテに向かいました。標高差およそ1400メートルを50分ほどで登ります。
午後になって日差しが強くなり、気温も上がって温かく感じます。頂上駅で降りると、ロートホルンから見る角度とは違うのですが、やはり向かって左からアイガー、メンヒ、ユングフラウが幅広に並んでいます。穏やかでくつろいだ姿に見えました。
ここの魅力は遠方の名峰と足下に広がる高山植物園(Alpen-garten)です。さすがに秋の終わりとあって色鮮やかとはいきませんが、それでも豊かな色彩がハイカーの目を楽しませてくれます。あちこちで立ち止まってはクイズを解いて散歩道を回る親子連れが何組かいました。こうして高山植物の勉強をしているのでしょうか、楽しそうでした。
さて、カウベルです。登山鉄道駅を降りて頂上を目指して歩きだしました。ほどなく植物園の見晴らしのいい丘に、コの字を立てた形の柱があり、横木から5連のカウベルが吊してあります。
五つのベルの真ん中にあるのが皇太子殿下御訪問の記念に登山鉄道会社(ロートホルン鉄道)が設営したものです。他の4個に比べ一回り大きめで、真ん中に吊してあります。カウベルには英語で「日本国皇太子殿下」と刻んでありました。
平成26年(2014年)6月、「日本・スイス国交樹立150周年」を記念する催しがスイスで行われた際、当時の皇太子殿下がスイス政府の招きで来訪され、スイス国内の訪問先の一つにこの高山植物園がありました。
訪問後の御感想の中で、次のように述べておられます。
「また、私は、今回、英国修学時代以来約30年ぶりにスイスを訪れましたが、好天に恵まれ、シーニゲプラッテ高山植物園からそびえ立つユングフラウ、メンヒ、アイガーといったアルプスの山々を間近に見ることができ、改めてスイスの雄大な自然やベルンなどの美しい歴史的な街並みに大変強い印象を受けました。」
アルプスの山々に響くカウベルの音に耳を澄まされたことでしょう。
カウベルが並んだゲートの前でハイカーが記念写真を撮り、子供たちが無邪気にカウベルを鳴らしていました。その音がとても心地よく響きます。
こうしてハイキングの目的を果たし、気持ちよく麓に降りました。駅前に見えるブリエンツ湖は、午後からの微風で水面に小さな波紋を広げています。青緑色のショールをまとった湖が軽やかなステップを踏みながら、短いスイスの秋を惜しんでいるようでした。
午後になって日差しが強くなり、気温も上がって温かく感じます。頂上駅で降りると、ロートホルンから見る角度とは違うのですが、やはり向かって左からアイガー、メンヒ、ユングフラウが幅広に並んでいます。穏やかでくつろいだ姿に見えました。
ここの魅力は遠方の名峰と足下に広がる高山植物園(Alpen-garten)です。さすがに秋の終わりとあって色鮮やかとはいきませんが、それでも豊かな色彩がハイカーの目を楽しませてくれます。あちこちで立ち止まってはクイズを解いて散歩道を回る親子連れが何組かいました。こうして高山植物の勉強をしているのでしょうか、楽しそうでした。
さて、カウベルです。登山鉄道駅を降りて頂上を目指して歩きだしました。ほどなく植物園の見晴らしのいい丘に、コの字を立てた形の柱があり、横木から5連のカウベルが吊してあります。
五つのベルの真ん中にあるのが皇太子殿下御訪問の記念に登山鉄道会社(ロートホルン鉄道)が設営したものです。他の4個に比べ一回り大きめで、真ん中に吊してあります。カウベルには英語で「日本国皇太子殿下」と刻んでありました。
平成26年(2014年)6月、「日本・スイス国交樹立150周年」を記念する催しがスイスで行われた際、当時の皇太子殿下がスイス政府の招きで来訪され、スイス国内の訪問先の一つにこの高山植物園がありました。
訪問後の御感想の中で、次のように述べておられます。
「また、私は、今回、英国修学時代以来約30年ぶりにスイスを訪れましたが、好天に恵まれ、シーニゲプラッテ高山植物園からそびえ立つユングフラウ、メンヒ、アイガーといったアルプスの山々を間近に見ることができ、改めてスイスの雄大な自然やベルンなどの美しい歴史的な街並みに大変強い印象を受けました。」
アルプスの山々に響くカウベルの音に耳を澄まされたことでしょう。
カウベルが並んだゲートの前でハイカーが記念写真を撮り、子供たちが無邪気にカウベルを鳴らしていました。その音がとても心地よく響きます。
こうしてハイキングの目的を果たし、気持ちよく麓に降りました。駅前に見えるブリエンツ湖は、午後からの微風で水面に小さな波紋を広げています。青緑色のショールをまとった湖が軽やかなステップを踏みながら、短いスイスの秋を惜しんでいるようでした。