白石大使の活動報告コメント「リンギエー=アクセル・シュプリンガー社訪問<デジタル時代にあえて紙媒体で挑戦>」
令和3年12月27日


2021年12月15日、大物インタビュー記事を売りに雑誌を創刊した出版社をチューリッヒに訪れ、経営・編集幹部の人たちに会って話を聞きました。
この出版社は、スイスとドイツの老舗大手の出版メディアが協同出資で2016年に設立した会社です。拠点はチューリッヒとローザンヌ。新聞、雑誌の発行のほか、オンライン・メディア事業にも取り組んでいます。
新聞、雑誌など紙媒体を主軸とする多くの新聞社、出版社はこのところ読者の購読料収入、企業からの広告収入の減少に悩まされています。これはメディア先進国に共通した現象で、日本も同様ですが、スイスも例外ではありません。
最大の要因はなんといっても、デジタル時代の到来による情報媒体(メディア)の多様化です。インターネットの登場、パソコン、携帯電話の出現で、新聞や雑誌以外にも情報を扱う媒体が身近に存在するようになりました。
いつ、どこでも、だれでも、安く、あるいは無料で情報が手に入る便利な世の中になった、と多くの人が喜んでいるように見えます。しかし、便利さに潜む落とし穴を見逃してはいけません。
根拠のないうわさ、デマ、相手をおとしめる偽情報、世論操作をたくらむ政治工作あるいは詐欺、誹謗中傷がインターネット上を飛び交い、大きな社会問題になっています。情報の出所、真偽を確かめるのが非常に難しく、時間とコストがかかります。
また、情報そのものは無料で手に入るかも知れませんが、その代わり利用者の好みや考え方、個人情報が吸い取られ、見たくもない広告、宣伝を視聴させられます。パソコンや携帯を使えば通信料がかかっているので、全く無料で情報が得られる訳ではないのです。
新聞や雑誌を読むには購読料が必要ですが、それは情報への対価として、つまり情報の収集、分析、執筆、事実関係の確認も含めた編集、印刷、配達という情報の上流から下流に至るサービスへの対価、ということです。安心して読んだり、見たりできる情報・コンテンツへの対価として、それが安いのか、高いのか、読者あるいは利用者の判断次第ですが…
さて、そのデジタル・サービスの中でも最近は検索エンジン、ソーシャル・ネットワーク・サービスを提供する巨大なデジタル・プラットフォームがニュースの提供を含め存在感を増し、紙の媒体から読者や広告を奪うようになっています。
一方、生活様式の変化に伴う若者の活字離れとともに、人口動態の構造的変化も要因として指摘されています。つまり、これまで新聞、雑誌、書籍に親しんできた世代が高齢化し、この読者層が細っている反面、若い読者層が育たないという現象です。若い世代は、紙の媒体よりはデジタルの媒体を好む傾向が強く、「情報はただで手に入る」と思い込みがちです。若い人が引き寄せられるデジタル媒体に広告が移動するため、必然的に紙媒体の収入が減り続けるという構図です。
スイスを拠点とするリンギエー社も、ドイツを軸足にヨーロッパで広く事業を展開するアクセル・シュプリンガー社も、こうした状況を見ながら手をこまぬいてきたわけではなく、紙の媒体に加えデジタル・サービスの分野にも進出し、広範な読者、利用者、消費者層にニュースや広告情報を届ける努力を続けています。
しかし、お互いの競争激化に伴い、読者と広告を奪い合う「共食い」現象が起きたため、それを避ける狙いから、両社が共同で新しく会社を立ち上げ、それまでアプローチが十分でなかった分野を深掘りしようということになったようです。競争ではなく協調で時代の荒波を乗り越えようというわけです。
その試みの一つが「インタビュー ( INTERVIEW )」誌の創刊です。11月に創刊号が出版されました。タイトルが示すとおり、著名人のインタビュー記事が柱です。創刊号のメインはテニスのロジャー・フェデラー氏。そしてスイス連邦政府の内務大臣、アラン・ベルセ氏です。ほかにも大物が登場しており、多彩な顔ぶれが「売り」のようです。
狙いは、中高年の富裕層。お金にも時間にも余裕のあるリッチな人たちに、趣味性の高い読み物を提供する。同時に、そうした読者層に訴えるブランド品の広告を掲載して、企業からの広告料を獲得する計算です。
ドイツ語で印刷され、普通の雑誌よりやや大きめの活字が使われています。写真も多用されています。年2回の出版を予定しており、1部12フラン。プリント版のみでオンライン版は発行していません。創刊号の印刷部数、販売部数は聞き忘れましたが、最高経営責任者CEOのアレグサンダー・テオバルト氏によると、「反応は上々。広告収入も満足できるものだった」そうです。
老舗大手の出版社による共同出資とは言え、いわば新興の出版社にとっては、紙媒体に将来を賭ける「大きな挑戦」です。ネット時代の潮流にあえて逆らう、大人が楽しめる品のいい雑誌の旗揚げ、ということになるでしょうか。テオバルト氏は「反応がよければ、出版の頻度も多くしていきたい」と意欲的です。
今後の展開が注目されます。
この出版社は、スイスとドイツの老舗大手の出版メディアが協同出資で2016年に設立した会社です。拠点はチューリッヒとローザンヌ。新聞、雑誌の発行のほか、オンライン・メディア事業にも取り組んでいます。
新聞、雑誌など紙媒体を主軸とする多くの新聞社、出版社はこのところ読者の購読料収入、企業からの広告収入の減少に悩まされています。これはメディア先進国に共通した現象で、日本も同様ですが、スイスも例外ではありません。
最大の要因はなんといっても、デジタル時代の到来による情報媒体(メディア)の多様化です。インターネットの登場、パソコン、携帯電話の出現で、新聞や雑誌以外にも情報を扱う媒体が身近に存在するようになりました。
いつ、どこでも、だれでも、安く、あるいは無料で情報が手に入る便利な世の中になった、と多くの人が喜んでいるように見えます。しかし、便利さに潜む落とし穴を見逃してはいけません。
根拠のないうわさ、デマ、相手をおとしめる偽情報、世論操作をたくらむ政治工作あるいは詐欺、誹謗中傷がインターネット上を飛び交い、大きな社会問題になっています。情報の出所、真偽を確かめるのが非常に難しく、時間とコストがかかります。
また、情報そのものは無料で手に入るかも知れませんが、その代わり利用者の好みや考え方、個人情報が吸い取られ、見たくもない広告、宣伝を視聴させられます。パソコンや携帯を使えば通信料がかかっているので、全く無料で情報が得られる訳ではないのです。
新聞や雑誌を読むには購読料が必要ですが、それは情報への対価として、つまり情報の収集、分析、執筆、事実関係の確認も含めた編集、印刷、配達という情報の上流から下流に至るサービスへの対価、ということです。安心して読んだり、見たりできる情報・コンテンツへの対価として、それが安いのか、高いのか、読者あるいは利用者の判断次第ですが…
さて、そのデジタル・サービスの中でも最近は検索エンジン、ソーシャル・ネットワーク・サービスを提供する巨大なデジタル・プラットフォームがニュースの提供を含め存在感を増し、紙の媒体から読者や広告を奪うようになっています。
一方、生活様式の変化に伴う若者の活字離れとともに、人口動態の構造的変化も要因として指摘されています。つまり、これまで新聞、雑誌、書籍に親しんできた世代が高齢化し、この読者層が細っている反面、若い読者層が育たないという現象です。若い世代は、紙の媒体よりはデジタルの媒体を好む傾向が強く、「情報はただで手に入る」と思い込みがちです。若い人が引き寄せられるデジタル媒体に広告が移動するため、必然的に紙媒体の収入が減り続けるという構図です。
スイスを拠点とするリンギエー社も、ドイツを軸足にヨーロッパで広く事業を展開するアクセル・シュプリンガー社も、こうした状況を見ながら手をこまぬいてきたわけではなく、紙の媒体に加えデジタル・サービスの分野にも進出し、広範な読者、利用者、消費者層にニュースや広告情報を届ける努力を続けています。
しかし、お互いの競争激化に伴い、読者と広告を奪い合う「共食い」現象が起きたため、それを避ける狙いから、両社が共同で新しく会社を立ち上げ、それまでアプローチが十分でなかった分野を深掘りしようということになったようです。競争ではなく協調で時代の荒波を乗り越えようというわけです。
その試みの一つが「インタビュー ( INTERVIEW )」誌の創刊です。11月に創刊号が出版されました。タイトルが示すとおり、著名人のインタビュー記事が柱です。創刊号のメインはテニスのロジャー・フェデラー氏。そしてスイス連邦政府の内務大臣、アラン・ベルセ氏です。ほかにも大物が登場しており、多彩な顔ぶれが「売り」のようです。
狙いは、中高年の富裕層。お金にも時間にも余裕のあるリッチな人たちに、趣味性の高い読み物を提供する。同時に、そうした読者層に訴えるブランド品の広告を掲載して、企業からの広告料を獲得する計算です。
ドイツ語で印刷され、普通の雑誌よりやや大きめの活字が使われています。写真も多用されています。年2回の出版を予定しており、1部12フラン。プリント版のみでオンライン版は発行していません。創刊号の印刷部数、販売部数は聞き忘れましたが、最高経営責任者CEOのアレグサンダー・テオバルト氏によると、「反応は上々。広告収入も満足できるものだった」そうです。
老舗大手の出版社による共同出資とは言え、いわば新興の出版社にとっては、紙媒体に将来を賭ける「大きな挑戦」です。ネット時代の潮流にあえて逆らう、大人が楽しめる品のいい雑誌の旗揚げ、ということになるでしょうか。テオバルト氏は「反応がよければ、出版の頻度も多くしていきたい」と意欲的です。
今後の展開が注目されます。