白石大使の活動報告コメント「議場にドローンが飛んで外国大使らがびっくり」

令和4年1月25日
スイス新大統領による外交団への新年挨拶1 
スイス新大統領による外交団への新年挨拶2
2022年1月12日午後、ベルンにあるスイス連邦議事堂で、外国大使らを一堂に集めてカシス大統領が所信表明をしました。この種の外交団への年頭所感発表イベントは多くの国で行われているようで、大統領や首相が新年に当たり、外国政府を代表する大使たちに新年のお祝いと1年の抱負を述べて理解を求める、という狙いからです。 
 
昨年はコロナ禍のため中止になりましたが、今年は1年ぶりに復活しました。私も2020年に続いて2回目の出席です。前回は女性のソマルーガ大統領のスピーチを聞きました。言い忘れましたが、スイスの大統領は、連邦政府を構成する7人の閣僚が1年交替で務めます。閣僚としての担当職務を背負ったまま大統領職を務めることになります。 
 
会場は、日本で言えば衆議院に当たる国民議会の議場です。外交団は議員席に着くよう求められました。議席の正面と左右は感染防止のため、透明なアクリル板で仕切られています(写真参照)。議場には外国大使、臨時代理大使を含め100人余りが出席していたように思います。 
 
当日、壇上からスピーチが予定されていたのは恒例により外交団長のバチカン大使、続いてカシス大統領ということでした。これから演説が始まるというその瞬間、議場の中心部からゴーという音が響きました。最初は何が何だかわからなかったのですが、低いうなり声に似た騒音が1、2分続いた後、ドローンが床から浮きあがりました。そのまま天井近くまで上昇し、そこで数分間ホバリングしています。 
 
事前に議場内で案内放送があったようですが、隣席の大使仲間と雑談している間に聞き漏らしたのかも知れません。ドローンは5-6分飛んでから着地しました。小型カメラを積んで、議場内を空撮していたようです。

私だけでなく多くの外交団も度肝を抜かれたと思います。議場の中でドローンを飛ばすとは想定外でした。これが大統領の頭上に落ちてきたら、とそんな思いが私の頭をよぎりました。杞憂に終わって何よりでしたが、ユニークな演出に驚きました。私も同席していた何人かの大使同様、持ち合わせていた携帯電話で映像を撮ったのですが、おわかりになるかどうか。 
 
さて肝心の挨拶です。外交団長のクレブ・バチカン大使は、16世紀のドイツの天文学者、ケプラーの逸話を紹介。科学的真実を認めることの難しさは、現在のワクチン接種の有効性を否定する態度に通じると指摘し、困難な時こそ「科学的真実への信頼と謙虚な受け止め」が必要だと強調しました。 
 
余談ですが、バチカン大使のスピーチは前半が英語、後半はフランス語でしたが、カシス大統領は初めがフランス語、次いでドイツ語でした。多言語国家であるスイスの一面を見せつけられました。 
 
続いてカシス大統領は、コロナ禍はワクチンの開発、浸透によりいずれ収束するだろうとの見通しを述べた上で、地政学的に世界は多くの問題を抱えており、これに向き合う基本方針を見失っているように見える、と危機感をあらわにしました。しかし、スイスは困難な時期に問題解決への「橋渡し役(bridge-builder)を務める」との決意を示し、その具体例として、ジュネーブで行われた先の米ロ首脳会談を挙げました。 
 
外相を兼務するカシス大統領は、スイスが国際社会に対する責任を果たすため、国連安全保障理事会の非常任理事国選挙に立候補していることを明らかにし、各国の支援に改めて謝意を述べました。スイスが国連に加盟してから20年を経て、非常任理事国として積極的に平和と安全保障の問題にかかわっていくというわけですが、スイス国内では伝統の「中立政策」に反するのではないか、中立政策が危うくなるのではないか、と疑問視する声も依然として存在します。 
 
カシス大統領の年頭所感に示されたスイスの外交政策がどう展開していくのか、非常任理事国の選挙結果も含め注目されます。非常任理事国を選ぶ 
選挙は今年6月に行われる予定で、スイスは初の立候補、日本は12回目の立候補になります。任期は2023年から24年の2年間です。両国が選出されれば、安全保障理事会の場で日本とスイスの協力・提携が実現すると思います。大いに期待しています。(2022年1月24日記)