白石大使の活動報告コメント「グローバル化の拠点としてスイスの持ち味を生かす」

令和4年2月10日
白石大使の活動報告
白石大使の活動報告
白石大使の活動報告
2月4日、日本企業視察の一環として、レマン湖畔のボー州エトワ(Etoy)にあるサンスター・スイス(グローバル本部)を訪れました。日当たりのいい、畑の多い高台にある、日本流に言えば企業団地の一角に、本社ビルが建っています。近隣のオフィスビルとは違って、おしゃれな美術館を思わせるモダンで粋な建物です。オーナー経営者の思い入れを生かして、「日本」の息づかいを今に伝えるオフィスビルになっていました。

サンスターと言えば歯磨き粉、歯ブラシが代名詞になっていますが、現在では口腔ケアだけではなく化粧品、健康食品など幅広く製造・販売していると言います。もちろん、バイクや自動車などの金属部品用接着剤、シーリング材なども生産しているそうです。

事業の多角化、グローバル化を目指す中で本社機能を大阪・高槻市からスイス・エトワに移したのが2009年。スイスがグローバル本社で日本は現地法人の扱いです。売上げの半分は日本で、次いで米州、アジア、欧州の順になっているそうです。

オフィスビルを見学した後、取締役会幹事のネッツォールドさんと執行役員人事総務担当のリンツさんから、事業の内容を説明してもらいました。お二人とも日本語が達者で説明もすべて日本語でした。もちろん日本語のほか独、仏、英語もできるのだろうと思いますが、お会いしてからずっと日本語でやりとりしていました。

両氏の説明に続いて、ビデオ会議の形で日本にいる中村COO(最高運営責任者)からお話を聞きました。その中で世界戦略の拠点としてスイスを選んだ理由を尋ねると、「海外から企業を誘致するため、スイスが低い法人税を適用しているという利点を考慮したほかに、もっと大事な要素がありました」。中村さんが指摘していたのが、日本人とスイス人の価値観が似ているということでした。(1)品質を重視する(2)他人に親切なこと(3)政治・経済・社会が安定している(4)環境保護の意識が高い、などです。

中村さんに言わせると、「スイス」自体がブランドとして世界に通用するし、何よりグローバルに活躍できる人材が豊富で、必要な人材を集めるのに苦労しないところが魅力とのこと。多言語を操る国際性だけでなく、それを生かすビジネス・スキルを身につけている人が多いということなのでしょう。

私も大使として赴任してから2年4か月ほどですが、スイス人(中には外国籍のままの人もいますが)の能力の高さにいつも驚かされます。文系、理系を問わずスイスのエリートの多くは、国内外の大学、大学院で学び、修士・博士号を持ち、多言語を操る即戦力のグローバル人材で、それが当たり前、という感覚です。

スイスでは、新卒一括採用、社内教育、終身雇用が一般的な、日本企業のあり方とは異なる企業文化が定着しています。これはスイスだけでなく欧米の企業全般に言えることかも知れません。スイス人が外国企業で働き、幹部やトップとして経営に当たる、あるいは逆に外国人がスイスの企業で働き、重要な地位を占める、ということが日常茶飯事的に起きているのが現実です。

こうしたスイスの環境下に本社を置き、世界展開の拠点として活用するという決断に至るのは、サンスターにとっては簡単なことではなかったろうと思います。結果的にはいい決断だったと言えるのでしょう。

今回の訪問を冒頭、「日本企業視察」と書きましたが、正確には「日系のスイス企業」と表記すべきかも知れません。日本を飛び出しスイスを拠点に世界でビジネス・チャンスを追求するサンスター社の活躍を期待しています。(2月9日記)