白石大使の活動報告コメント「バウアー財団東洋美術館訪問 <竹細工の異次元宇宙に酔う>」

令和4年2月10日
白石大使の活動報告「バウアー財団東洋美術館訪問≪竹細工の異次元宇宙に酔う≫」
白石大使の活動報告「バウアー財団東洋美術館訪問≪竹細工の異次元宇宙に酔う≫」1
白石大使の活動報告「バウアー財団東洋美術館訪問≪竹細工の異次元宇宙に酔う≫」2
白石大使の活動報告「バウアー財団東洋美術館訪問≪竹細工の異次元宇宙に酔う≫」3
2月4日、サンスター社訪問後の帰路、ジュネーブまで足をのばし、バウアー財団東洋美術館を訪ねました。美術館では、日本の竹工芸作家・四代田辺竹雲斎さんが制作中の作品を鑑賞しました。

バウアー財団東洋美術館は中国・日本の美術品およそ9000点を所蔵するスイスでも指折りの美術館です。ジュネーブ領事事務所と協力して、日本文化紹介事業にも積極的に関わっていただいています。その一環として「日本茶大使」の岡本江美子さんが定期的に日本茶講習会を開いているそうです。

美術館の名前は、スイス人の美術品収集家、アルフレッド・バウアーさん(1865-1951)に由来します。バウアーさんはチューリッヒ出身で、実業家として成功されたそうですが、生前、6000点以上の日本美術品を買い集めたといいます。江戸時代から昭和初期にかけての美術、工芸品に魅せられて多様な作品を収集し、それが現在の東洋美術館所蔵の中心になっています。ジュネーブ市内の住宅街の一角にある端正な邸宅が美術館として利用されています。

常設の展示に加え、時々特別展も開かれていますが、今回お邪魔したのは昨年11月から開かれている竹工芸作家・4代目田辺竹雲斎さんの特別展です。フランスの芸術家(絵画、彫刻、版画制作)であるピエール・スーラージュさんとの共同展になっています。共通するのは、白と黒、光と闇、有と無の対照の世界でしょうか。特別展のテーマは「光への賛歌」( eloge de la lumiere: in praise of light)です。

田辺さん御自身が美術館内で竹の巨大オブジェを制作して展示する、その創作現場を見せてもらえるというので、楽しみにしていました。シュワルツ・アレナレス館長の出迎えを受けて、館内で特別展示されている両氏の作品を鑑賞すると、不思議なくらい相似性を感じるのです。

美術館に一歩踏み込むと、2階への階段脇のスペースに制作途中の竹の巨大なオブジェが目に入りました。そして、数歩離れた展示室の入り口に、スーラージさんの作品があります。黒を基調とする単色系のグラデーションに、太陽を感じさせる金色が内部から見えてくる磁器の花瓶です。スーラージさんの感性が日本的というか東洋的に感じられてとても印象的でした。

それと対比させてあるのが、田辺さんの竹工芸です。先代の作品も展示されていて、竹を割って細くそいだ「ひご」を伝統的な手法で編んだ花入れが魅力的でした。竹といえば一般的に青いと思うのですが、竹を炎の中であぶって竹の組織の中の脂分を表面ににじみ出させると、外側が黒ずんで漆を塗ったようになります。その味を生かしながらかごを編むのだそうです。

4代目に当たる田辺さんは、伝統的な手法を引き継ぎながら独自の技法を編み出し、独特な造形を作品にしています。竜が舞い上がっては降りるような姿を想起させる大きなオブジェや、多次元の宇宙を感じさせる立体的な作品が、見る人の意表を衝きます。数理計算で導き出した楕円軌道を竹ひごで重ねた作品は、宇宙の惑星の周回軌道を見ているようでした。

会場では、田辺さんの竹の切り出しからひご作り、そして編む過程をビデオで紹介していて参考になります。田辺さんは作品が完成した後、ジュネーブを離れてしまうということでしたが、美術館を訪れる多くの人が竹の魅力に引き込まれると思います。私にとっても「日本発見」の得がたい一日になりました。(2月10日記)