白石大使活動報告コメント:「難しい日本語を易しく教える苦労がわかります」

令和4年11月7日
白石大使によるスイス日本語教師の会セミナー出席
幼児の時から慣れ親しんできた母国語とは、全く異なる言語体系にある日本語を習得するのは、どの外国人にとっても容易ではありません。逆も真なりで、英語やドイツ語を勉強している私自身が日頃、痛感しているところです。

それをスイスで実践しておられる、日本語教師の皆さんの御苦労は相当なものと思います。日本人から見ると、スイスの人たちは複数の言語を操ることがごく普通にできる、うらやましい存在です。ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の4言語が公用語になっており、スイス国内で意思疎通を図るとなれば、お互いにこれらの言葉を理解できなければならないわけですから。

4言語を自由自在に操るというのはさすがに大変でしょうが、独仏伊語を操る人は多いはずです。それに、英語がビジネスの場では必須になっているので、それぞれ使用言語が異なる地域での外国語教育に、英語が大きな比重を占めています。

しかし、英語も含めて、スイスで使われる言語はヨーロッパ系の言語グループで、土台部分はほぼ共通と考えていいでしょう。ですから、比較的、容易に異なる言語を習得できるのではないかと思います。

しかし、スイス人が日本語を勉強するとなると、ヨーロッパ系の言葉を習う以上に、何倍ものエネルギーが必要です。それを生徒に教えるという仕事は、学ぶ以上に難しいはずです。

日本語教師の会は、スイスで日本語を教え、普及させることを目的としていますが、同時に、教師の間の友好を促進し研修を深めるため、毎年、春と秋の2回、セミナーを開いてきました。

最近はコロナ禍のためにセミナー開催もままならず、一堂に会してのセミナーは3年ぶりだそうです。

この日は、午前10時頃から夕方まで、昼食を挟んでみっちり研修セミナーが行われました。私は、冒頭の挨拶と、それに続く講演の機会をいただき、大変、光栄でした。

大学を卒業して以来、半世紀の間、新聞社に身を置き、記者として現場の一線から編集責任者を経て、さらに経営にまでたずさわることができました。今は想定外だった外交官の立場にありますが、「生涯一記者」の気概を持ち続けているつもりです。

その立場から、短い公演の時間ではありましたが、日本語について思うことの一端を新聞との関わりの中で、日本語教師の皆さんに紹介したいと思いました。

駆け出しの記者時代に教えられたのは、十四五歳の中学生が読んでわかる、それも一読して頭に入る文章を書け、ということでした。今でも教訓として肝に銘じています。

これは、母国語の日本語で、日本人の読者にニュースを伝え、解説するときの心構えですから、外国人に日本語を教える教師の皆さんの立場とは次元が異なる話だと思います。しかし、母国語であれ外国語であれ、平易な言葉でわかりやすく思うところを伝える、それが書き言葉であれ話し言葉であれ、根っこは同じだと考えるのです。

講演では、残念ながら意を尽くせなかったのではないかと反省していますが、日本語教師の皆さんには今後もますます日本語教育と日本文化の普及に御尽力いただけるよう、心からお願いいたします。(9月12日記)